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佐藤なうsato-now

シリーズ年次有給休暇 No,2「時季変更権」とは・・・

昨年から「年次有給休暇」に関して取り上げております。今日は「時季変更権」というものについて深堀してみようと思います。少し長くなりますが・・・

・時季変更権って?
労働基準法第39条第5項但書から、
法律では、従業員が請求した時季に有給休暇を与えることが、会社にとって「事業の正常な運営を妨げる場合」には、会社に他の時季に有給休暇を与えることができる権利を認めており、この権利を「時季変更権」と言います。

これにより、原則として、従業員の希望する時季に有給休暇を取得させるべきとする一方で、会社の事業運営に支障が生じる場合には、会社にその取得時季を変更する権利を認めることによって、両者の調整を図っています。
しかし、実際にどのようなケースが「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するのかについて、法律には定められていないため、判断の際には、これまでに蓄積された判例などを参考にしています。

・事業の正常な運営を妨げる・・・とは
一般に、有給休暇を取得する日の業務が、その従業員の担当業務や、所属する部署の業務など一定範囲の業務運営に不可欠であり、さらに代替要員を確保することが困難な場合をいうと解されます。

また、「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するためには、現実に事業の正常な運営が害されたという事実が生じることまでは求められておらず、判断当時の客観的状況に照らして、合理的な予想に基づいて判断すればよい(結果的に支障がなかったとしても問題はない)と解されます(新潟鉄道郵便局事件/最高裁判所昭和60年3月11日判決)。

なお、代替要員の確保について、裁判例の傾向では、複数の従業員が交代勤務などにより同じ業務に従事している場合には、代替要員の確保は比較的容易であると判断される一方で、専門的知識や経験を要する特殊な業務に従事している場合には、代替要員の確保は比較的困難であると判断される傾向があるといえます。

判例1(日本電信電話事件/最高裁判所平成12年3月31日判決)
研修期間中の有給休暇の取得については、研修を欠席しても、予定された知識や技能の修得に不足を生じさせないものであると認められない限り、会社は時季変更権を行使できるとしました。

判例2(西日本ジェイアールバス事件/名古屋高等裁判所平成10年3月16日判決)
単に慢性的な人手不足(事案では要員の不足が9ヵ月に及び常態化していた)によって、会社が代替勤務者を確保できないと認められる場合には、事業の正常な運営を妨げる場合に該当せず、会社は時季変更権を行使できないとしました。

判例3(電電公社此花電報電話局事件/最高裁判所昭和57年3月18日判決)
結果的に事業の正常な運営が確保されたとしても、業務運営の定員が決められていることなどから、事前の判断によって事業の正常な運営が妨げられると考えられる場合には、会社は時季変更権を行使できるとしました。

・会社はどうしたらよいか
有給休暇の取得が「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するとしても、会社は時季変更権を行使する前に、できる限り従業員が指定した時季に有給休暇を取得することができるように「配慮」する必要があると解されます。
ここでいう「配慮」とは、例えば、業務の調整、勤務予定の変更、代替勤務者の確保に努めることなどをいいます。
判例でも(弘前電報電話局事件/最高裁判所昭和62年7月10日判決)「労働基準法は会社に対し、できるだけ従業員が指定した時季に休暇を取得できるよう、状況に応じた配慮をすることを要請しているものとみることができる」こうあります。
会社として通常の配慮をすれば、勤務割表(シフト)を変更して代替勤務者を配置することが客観的に可能な状況にあるにも関わらず、当該配慮をしないことは、時季変更事由に当たらないと判断しました。

また(時事通信社事件/最高裁判所平成4年6月23日判決)では、会社が行った配慮が評価された事案として、従業員からの1ヵ月(有給休暇の日数は24日)に及ぶ長期の有給休暇の申請に対し、会社が「2週間ずつ2回に分けて休暇を取ってほしい」旨を回答した上で、後半部分の10日間についてのみ時季変更権を行使したことが、当時の状況下において、従業員に対する相当の配慮をしたものと評価され、時季変更権の行使を有効と判断した判例もあります。

・時季変更権の行使はいつ?
会社がいつまでに時季変更権を行使すべきかについて、法律上の定めはありません。基本的には、時季変更権の行使時期が、申請された有給休暇の取得希望日よりも前であれば、特に問題はありません。
ただ以下の判例もあります。
(電電公社此花電報電話局事件/最高裁判所昭和57年3月18日判決)
取得希望日の直前に申請された場合など、会社に時季変更権の行使を事前に判断する余裕がなかった場合には、客観的に時季変更できる理由があり、速やかな変更がなされたのであれば、有給休暇の開始後または当該休暇期間の終了後に時季変更権を行使した場合であっても、適法とされました。

他方(ユアーズゼネラルサービス事件/大阪地方裁判所平成9年11月5日判決)
有給休暇の取得開始から13日後に会社が時季変更権を行使した事案において、合理的期間を過ぎ時機を逸した時季変更は認められないとした裁判例もあります。
ケースバイケースです。

・時季変更権の行使はどうやってするの?

法律上の定めはないため、例えば、従業員の有給休暇の申請に対して、会社が当該申請を受理しない旨を意思表示することで、時季変更権を行使したことになると解されます。
(JR東日本(高崎車掌区・年休)事件/東京高等裁判所平成12年8月31日判決)
こちらでは、時季変更権を行使する際において、会社は従業員に対して、別の時季を指定する義務を負わないと解されますので、別に候補日を提示するなどの必要は特にないとされました。

有給休暇の取得理由を確認することの可否は?
(林野庁白石営林署事件/最高裁判所昭和48年3月2日判決)
裁判例においても、「有給休暇の利用目的は労働基準法の関知しないところであり、有給休暇をどのように利用するかは、使用者の干渉を許さない労働者の自由である」としています。
よって、基本的には会社は従業員に対して、有給休暇の取得理由を確認すべきではないといえます。

他方、時季変更権の行使の判断においては、有給休暇の取得理由を把握することが必要となる場合があります。
(電電公社此花電報電話局事件/最高裁判所昭和57年3月18日判決)
「会社に時季変更権の行使を判断する必要性がある場合には、会社が従業員に対して、有給休暇の取得理由を確認することが認められる場合があり得る」としています。
例えば、重複する日について、複数の従業員から有給休暇の取得の申請があった場合には、各従業員の取得理由を考慮したうえで、その一部の者に対しては時季変更権を行使せざるを得ないことがあります。
その際、有給休暇の取得目的が、病気や家族の介護など、やむを得ない事由であるのか、それとも旅行や趣味などの休暇であるのかによって、判断が異なる可能性があります。
このような場合において、「有給休暇の利用目的の重大性・緊急性の程度によって時季変更権行使の対象者を定めることは、合理性と必要性が存在し、問題がない」としている判例もあります。(大阪職安事件/大阪地方裁判所昭和44年11月19日判決)

・時期変更権行使の結果・・・

適法な場合
従業員が申請した有給休暇の取得希望日について、従業員の労働すべき義務はなくなりません。したがって、従業員が出勤をしなければ欠勤となり、また、当該欠勤によって懲戒処分の対象になり得ると解されます。

違法な場合
会社は従業員に対して、損害賠償責任を負うことも・・・

・有給休暇が、連続・長期に及ぶ場合
申請する有給休暇が、連続・長期に及ぶ場合においては、時季変更権の行使の判断が困難になることがあります。
従業員が会社に対して、1ヵ月間(有給休暇の日数は24日)の休暇を取得したい旨を伝えたところ、会社が代替勤務者を配置する余裕がないことを理由として、「休暇を2週間ずつ、2回に分けてほしい」旨を回答し、後半の10日間の有給休暇について時季変更権を行使した事案について、裁判所は、労働者が長期かつ連続の年次有給休暇を取得しようとする場合においては、それが長期のものであればあるほど、使用者において代替勤務者を確保することの困難さが増大するなど事業の正常な運営に支障を来す蓋然性が高くなり、使用者の業務計画、他の労働者の休暇予定等との事前の調整を図る必要が生ずるのが通常であると判断した判例があります。(時事通信社事件/最高裁判所平成4年6月23日判決)
よって、連続・長期に及ぶ有給休暇を申請する場合においては、従業員自身においても、事前に会社との間で十分な調整を行うことが求められます。

・時間単位年休と時季変更権
有給は1日単位で取得することが原則ですが、労働基準法では、1時間を単位とした有給休暇の取得を認める制度(以下、「時間単位年休」といいます)があります(労働基準法第39条第4項)。
時間単位年休も、1日単位の有給休暇と同じく、会社に時季変更権が認められます。

ただし、従業員が時間単位年休の取得を申請したにも関わらず、会社がこれを1日単位に変更するよう命じることや、逆に、1日単位の有給休暇の取得を申請したにも関わらず、これを時間単位年休に変更するよう命じることは、時季変更権には該当せず、法律上認められないことに留意する必要があります。
これは平成21年の手引きで述べられています。(基発第0529001号)

・まとめ
けっこう長くなってしまいました。色々な判例があって、そのケースごとに可否が決められていますが、大切なのは会社側と従業員側の日頃からの意思疎通や理解度、様々な要因が絡み合ってきますので、日ごろからコミュニケーションをしっかりとって、双方にとってよい方向をもたらすように努めていくことが大切です。
結果的に有休をとることで、会社にとっても生産性(利益)が上がり、従業員も休むことで更に仕事に励める環境づくりが大切です。人間同士のやり取りですので、少しずつ妥協をするところからいい関係は始まると思います。

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